ブログは移動中や子どもたちが寝た後に書くことが多いが、最近の電車移動はもっぱら図書館だった。
ジャレッド・ダイアモンド著の「銃・病原菌・鉄」。20 年前に出版されたこの本に、取り憑かれたかのように没読しました。喪失感に浸るのではなく、読書感想文を。
銃・病原菌・鉄。この3つは何なのか?
新地域、「新大陸」にたどり着いた人類が拡散するのに貢献した3つの要因である。なぜ、ヨーロッパ人はアメリカ大陸を、アフリカを征服したのか。なぜ原住民に取って代わったか。なぜ同じ事がニューギニアでは起きなかったのか。なぜ、なぜ、なぜ。
「なぜ」を突き詰める、彼の独特な切り口に吸い込まれて行きました。この本は、多くの人の既存新の考えを覆すものです。たとえば‥‥
- 私:社会科学ってどこが『科学』なの?
- 白人至上主義者:白人は選ばれし人種である
- 一部のキリスト教信者:神のご加護があって、アメリカ大陸を制することができた
- 英雄思想:英雄一人の功績は、実は人類史をそう左右しない
などなど、上げだすと切がない。
今回は、私の考えであった「社会科学ってどこが『科学』なの?」が、如何に覆ったか、について書きます。
技術職に着いたことはありませんが、私は元素記号表を持ち歩く理学部生でした。イギリスで過ごした大学時代、social sciences (ソーシャル サイエンス)という言葉を幾度も耳にしました。直訳は「社会科学」。経済、政治、地理などのいわゆる社会科の科目は、イギリスでは「科学」として扱われていました。
これらの科目を「文系」と総称する日本で育った私には違和感があった。それって科学なの?実験することもできないのに?
これまでこ私は「再現性のある実験ができるもの、それが科学だ」と認識していた。
自然科学を専門的に勉強した私には、恥ずかしながら選民思想もあったのか、うがった目で文系科目を見ていた。実験という拘束時間もなく、3限から始まるゆとりある時間割も羨ましかったなぁ。高緯度のイギリスでは、冬の日照時間は短く、実験が終わる頃は寒い日没後だった。
なぜ、ヨーロッパ人は南北アメリカ大陸に到着するやいなや、あっと言う間に原住民を凌駕したのか。その要因は銃・病原菌・鉄である。
なぜ、ヨーロッパやアジアには銃や病原菌が生まれたのか。病原菌が生まれたのは、家畜に済む細菌が進化したためであり、家畜を持つようになったの理由は‥‥ではその理由は‥‥ではまたその理由は‥‥
なぜを突き詰めていく。
これこそ、科学かもしれない。
いわば自然科学絶対主義を否定しきれない私は、生まれて初めて「社会科学」を「科学」だと心底思った。
scienceの語源であるラテン語のscientia (だったかな?)は、「再現性のある自然科学」に限定したものではなかった。
そもそも、狭い視野に基づいたこれまでの私の「科学」の認識が、間違っていたのだろう。
「なぜ」を追求しつづけ、最終的には生態系や野生動植物の分布が、旧世界(ヨーロッパ)と新世界(南北アメリカ)の差を生んだのだと、理論的に立証していくのが、とても面白く引き込まれた。理学部出身の私にも馴染みのある、炭素14の量から年代を図る方法や、遺伝学や免疫学の理論を使って。
エピローグに、まさに「科学って自然科学だけだと思われ、歴史や人類進化学などは科学って認識されない」というジャレッド・ダイアモンド氏の嘆きが書かれていて、驚いた。まるで読み手の私の思考回路をわかっていたかのようだ。
歴史、植物学、動物学、文化人類学、化学、分子生物学、免疫学、遺伝学、言語学、考古学、地理学、数えきれない学問の分野に跨って、人類の移住について、理論的に分析し、その分野に疎い読者にもわかるように記述してある。
算数が嫌い、国語が嫌い、など特定の科目が嫌いである人口は一定数いるが、これだけの全ての分野を嫌い・興味がない人口は少ない。この本はそういった理由からも汎用性が高い。
作者と同じく学者で、本の虫である父の本棚から発見したこの本。
私にとっての運命の本は、高校時代に読んだ塩野七生著の「ローマ人の物語」。
銃・病原菌・鉄を知った上で、ローマ帝国の盛者必衰の過程を読むと、また違った世界が見えるかもしれない。
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